POP GEAR誌
1987年9月号記事抜粋
Huey Lewis and The News
DOING IT ALL FOR THE AUDIENCE「ぼくら政治のことをそんなに歌ってたわけじゃなく、ぼくら自身の存在そのものが政治だったという感じがするね。」
●朝の6時に宿泊先のホテルのまわりをジョギングしていたヒューイ。ミスター・ナイス・ガイの彼はニュー・ビデオ「すべてを君に」のこと、時代と自分たちの関係などを短時間だけど明快に語ってくれた。
「すてきな雑誌だね。写真はすてきだし記事も……いや、記事は読めないんだけどね、ガハハハハハ」と本誌を手にとってながめているかと思うと、「ぼくらを長い間支持してくれてほんとうにありがとう、という気持ちでいっぱいだ」と読者への感謝の言葉も忘れない。過密スケジュールの間をぬって気さくに取材に応じてくれたヒューイ。この明るさがたまりません。
――滞在中もジョギングしていたと聞きましたが、いつもそんなふうにして調子を整えているんですか。
朝の6時に走ったんだけど、他にスケジュールが空いている時間がないし昼間は暑いからね。ジョギングにかぎらず、いつも何か体を動かすようにしているんだ。
――最新ビデオの「すべてを君に」はドラマ性のある長い作品ですね。
フランケンシュタインからヒントを得て作ったんだ。バンドがフランケンシュタインの城に迷い込むという設定で、メンバー全員が何かの役を演じている。ぼくは自分自身とドクター・フランケンシュタインと怪物、マリオは彼自身とバトラーと双頭の怪物、ショーンは彼自身とイゴール……というふうにね。とっても笑える作品に仕上がってると思うよ。
――歌のほうはすごくセクシーな意味にとれますが、ビデオ・クリップは、わざとそういうふうに怪物に……。
歌にすでに物語があるのに、ビデオで同じ物語をなぞってみるのはつまらないと思うんだ。小説を映画化すると、たいてい映画のほうが小説よりずっとつまんなくなるのと同じで、いい歌があると、たいていはビデオより歌のほうがおもしろいんだからね。だからビデオ・クリップを作るときは、できるかぎり歌を説明するようなものは避けて、180度ちがうものを作るようにしてるんだ。
――'60年代にはサンフランシスコはヒッピーのメッカでした。そのころあなたもたぶんヒッピー的な生活をしていたのではないかと思うんですが、そのころ政治にも関心がありましたか。
正直なところ、僕は政治には深く関心を持ったことはないんだ。いちばん政治に関心があったのは、ニューヨークのコーネル大学にいたころ、'66〜'67年ごろ、学生の自治会が校舎を占拠したりしたことがあって、急進的な友達がいたから、周辺に出没していたんだけど、ぼくはバンドをやっていて、彼らのパーティーで演奏したりするといったふうで……。そのときぐらいかな。もちろん、ぼくにも政治的な意見はあるよ。でもそれをファンにいえるほど個々の問題について詳しく理解できてると思ったことはないんだ。
――'60年代のことを書いた本を読むと当時のサンフランシスコでは、音楽と政治がすごく密接に結びついていたような印象を受けるんですが、実際のところはどうだったんですか。
政治のことをそんなに歌ってたわけじゃなく、ぼくら自身の存在そのものが政治だったという感じがするね。“ドント・トーク・イット・オア・ライト・アバウト・イット。ジャスト・ビー・イット”しゃべったり書いたりしないで、身をもって示せ、というのかな……。'60年代に関してはグレートフル・デッドのジェリー・ガルシアがいってるけど、何かに没入していれば手ごたえがあった時期だった。対象が科学だろうが、政治だろうが農業だろうが、だれかが熱心に語れば偏見なしに耳を傾ける者がいた。すごくクリエイティブな時代だったと思うね。
――「ヒップ・トゥ・ビー・スクェア」はヤッピーを皮肉った歌と思っていいのかしら。
サンキュー。
――自分たち自身を笑ってるという部分もある?
そのとおり、今ヘイト・ストリートを通ってみると、街はすごくきれいになって、ブティックでスポーツ・シャツなんかを売ってる。スクェアなのがカッコいいというわけだよ(ヘイト・ストリートは'60年代にはヒッピーの集まる街として有名だった)。こっけいな話だけど、アメリカじゃこのジョークがなかなか通じなくて。
――レーガン大統領が反ドラッグ・キャンペーンをやっているけど、効果があると思いますか。
思わないな。ぼくらの“アイ・ウォント・ア・ニュー・ドラッグ”のほうがどんな反ドラッグ・キャンペーンよりドラッグに関する現実感のある見方を持っていると思うよ(この歌は、薬中毒の男をおもしろおかしく描いており、反ドラッグ的な印象を受ける)。ぼくが子供だったらレーガンの話を聞いてドラッグに走りそうだな(笑)。
短いインタビューの時間はあっという間に終わった。アメリカに戻ってあと3週間ツアーがあって、そこから先はお休み。「次のレコードやツアーのことだけは質問しないでくれよ。ガハハハ」と笑っていたヒューイ。この号が出るころは、どこかで魚釣りでも楽しんでいることだろう。(文:北中正和)
「レディングでやったコンサートは最初のビッグなショウでね。終わった後、女の子たちが“イカしてるじゃない”っていってくれたよ。」
●ニュースの面々はいったいどんな少年時代を送ったんだろうか?これまでに聞いたことのない奇抜な切り口で、それぞれの人間性に迫ってみた。とにかく5人ともにぎやかで騒々しいくらいだった。
“ヒューイのばかりじゃなく、ニュースのインタビューをぜひ!!”という読者諸君の要望に、やっとこさこたえられるときがきた。もっとも、5人ともなると、にぎやかで騒々しいくらい。「じゃあまず、みんなどんなガキン子だったの?」と訊ねたら「セーノ」って全員がいっせいに答えを返してくるのにはおそれいった。
――ちょっと待って、ひとりずつだ、ひとりずつ。まず、クリスさん。
クリス:エッ?僕、ウーン、ふつうの子だったね。動物を虐待する以外は、というのは冗談だけど、ま、7歳のとき以来、音楽をはじめて以来、今日に至ってるってわけだ。
――スポーツの方は?
クリス:陸上をやってた。フットボールをやるには体が小さかったし、バスケットをやるには背が足りなかったし、野球をやるには力が足りなかったというチビッ子です。いじめられてたんだ(笑)。
マリオ:そう、泣き虫です(笑)。
クリス:そんなことはないよ、ともかくよく走ってた。でも、年とった今じゃゴルフをやってるくらいだ。
――ジョニーは?
ジョニー:僕もふつうの子供だったけど、兄貴がワルガキでね、いろんなことを教えられた。ハックルベリー・フィンみたいな子供時代を送ってきたんだ。カリフォルニアの谷間で、山登りしたり、魚獲りしながら。
――音楽をはじめたのは?
ジョニー:両親が教育畑の人間で、子供には年齢に応じてなんでも見聞きさせたり、やらせるべきだって考えの持ち主だったからね。小学校4年のときにピアノのレッスンを受けさせられて、そのうち学校のバンドに入ったんだ。
――女の子を追っかけはじめたのは?
ジョニー:音楽をはじめて、すぐ。あのね、エージ、何をいわせんだ。
――じゃ、ショーン。
ショーン:僕は3年のときからだった。でもピアノの先生が気に入らなくて1ヶ月でやめて、以来、レコードを聞いてマネてばかりいたね。
――スポーツは?
ショーン:子供のとき、足が悪くてスポーツらしいものはできなかった。今でもそうだけど、サイクリングぐらいだね。他にスピード・スケートやローラー・スケート、ハイキングも好きだ。
――じゃビルさん。
ビル:音楽をはじめたのは7歳のときだけど、野球のファンで自分でもやってた。でも14歳のとき、野球よりドラマーに向いていると思って、この道を歩みはじめたんだ。スポーツはなんでも好きで今でもなんでもやるけど、音楽ほどにはうまくいかないね。
――マリオさん!!
マリオ:森の中で育ったんだ。友達がたくさんいて、よく遊んだね。音楽をはじめたのは、やはり学校時代。いちばん大きなベースを選んだ。大きいのと音の低音が、気に入っててね。楽器をひきずりながらどうやったら音が鳴るかって、研究したよ。それと、映画、モンスター映画が好きだった。
――で、みんな最初はライバル・バンドとして競いあってたんでしょ?
ショーン:みんながいうほどには、僕はそう思ってはいなかったよ。たまたま同じ時期に、同じ場所でやってただけでね。実際、当時から仲は良かった。お互い口にこそ出さないけど、“あいつはイケル”って思ってたもんだよ。
マリオ:でも、いつも、同じ仕事をねらってた、ということはあった(笑)。
――やってた音楽は?
ビル:似たようなものさ。でも僕らの方がうまかったね(笑)。
マリオ:そうそう、絶対に(笑)。
ビル:クリスは別として、一緒にやる以前からの知り合いだった。ジョニーなんて僕がマリオとやってたバンドを見にきて「俺がいるんじゃない?」っていうからさ「じゃ、入れよ」っていったら、次の日にはもうメンバーになってたぐらいでね。
―― 一緒にはじめて、こいつはイケルって思ったのは?
ビル:カリフォルニアのレディングでやったコンサートだった(笑)。
ジョニー:最初のビッグなショウでね。コンサートの後、女の子たちが“イカしてるじゃない”っていってくれたよ。
――それが今やアメリカのナンバー・ワン・バンドだもんね。
ビル:いや、そうは思わないね。
ジョニー:そう、アメリカはナンバー・ワンがいっぱいいるから(笑)。
マリオ:俺たちはさしずめトナリの男の子的バンドのナンバー・ワン、ってとこだね(笑)。
――で、ヒットを生み続けるのに心がけてることってある?
マリオ:来年当たりヘヴィメタでいくってのはどう。レザーでキメてブロンドの髪にして(笑)。
クリス:カントリー・メタルっていうのも悪くないぜ(笑)。
ビル:ま、同じことをやり続けるだけだろうね。
クリス:そう、僕らが心から好きな音楽をやるっきゃないってことだと思うんだ。そうだね。きっと。
(文:小倉エージ)