POP GEAR誌
1986年4月号記事抜粋
この記事はアルバム「FORE!」発売前に書かれたものです。
「ヒューイ・ルイス・アンド・ザ・ニュース」
●発売当時3万枚ほどしか売れなかったこのアルバムについてヒューイ
3週間、よけいな手を入れずに自然な形で録音したんだけど、結局コケちまった。ダイレクトすぎたんだね。ラジオじゃBGMにしか使われなかったし。
良い曲もあったんだけど、サウンド面での詰めが甘かった。クリス
ファーストは、3枚のアルバムの中じゃ一番出来が良くないと思う。
ジャム・セッションで演ってた曲ばかりで、録音の時もそのままのノリだったんだ。昔っぽいロックンロール・サウンドを目指しててその点じゃ成功したんだけど、これからはこういうのが流行るぞって思ってたらアテがはずれちゃって・・・。まあ、プロデュースに至らない点があったってことにしておこうよ。ジョニー
いい歌はたくさんあるけど、プロデュースがお粗末だったんだ。
●メンバーによる曲紹介☆スーナー・オア・レイター
ジョニー
ロックパイルとビーチ・ボーイズをミックスしたみたいな音だろ。
前からあちこちのバーで演ってた曲だよ。
もともとはバラードで、シーンのピアノをバックにヒューイが歌っていたんだ。タイトルも違っていたな。ヒューイがサビの詩を後からくっつけて今みたいな曲になったんだ。☆ドント・メイク・ミー・ドゥ・イット
ジョニー
僕がピアノで作曲してヒューイが曲を付けた。僕はサックス担当だけど、作曲はピアノでやる。
ステージじゃギターも弾くけど、あれはコーラスやってるときに手持ちぶさたにならないようにするだめさ。☆うちあけないで!
ジョニー
これは全部クリスの曲。最近はあまり演奏しないな。僕らアダルトなバンド(笑)だから、ヘッドバングする曲って似合わないだろ。クリス
ロックンロール、だね。詩より先にメロディを書いたらうまくハマんなくて、ちょっと字余りになっちゃった。☆トラブル・イン・パラダイス
ジョニー
ヒューイと僕が初めて共作した曲。僕のメロディとヒューイの詩のアイデアを合わせて1日で書き上げた。☆恋はこれっきり
クリス
なぜかステージでは演らなくなっちゃったね。昔はいつだってこの曲が締めくくりだったんだけど。
全員の共作だよ。ベース・ラインはマリオが書いた。ジャム・セッションで出来た曲だね。ジョニー
悪魔っぽいベース・ラインで実にマリオらしいよ。”ハート・アンド・ソウル”のビデオでマリオは吸血鬼の役をやっているけど、まさにハマリ役だろ?
あいつんち、家族そろってあんな感じなんだぜ(笑)。
「ベイ・エリアの風」
●バンド存続をかけ、アルバムをヒットさせるためのシングル曲ラジオオンエア数を稼がなければいけなかったことについてヒューイ
ヒットの可能性がある曲を出さなきゃならなかった。これはビジネスで、パーティーや遊びじゃないんだから。まず25曲作って、それを6曲に絞った。それ以外にレコード会社から勧められた曲が5曲あった。
とにかく、ヒット・シングルが必要だった。さもなきゃ、また大工仕事に逆戻りさ。
●クリサリスの用意してくれた何人もの敏腕プロデューサーを断ったことについてヒューイ
どのプロデューサーも上手すぎるって感じがしたんだ。で、5,6人とやって全部没にしたら、さすがにクリサリスからクレームがついてね。「ハリウッドでも最高のプロデューサーを呼んでやったのに、どれも気にくわないなんてどういうことだ!」って。
だから、「試しに一度、俺達だけでやらせてくれ。2曲で良い。スタジオを3日貸してくれ。」とこう頼んだんだ。一気に2曲録音して、さいわいクリサリス側も気に入ってくれたんだけど、あれは俺達の歴史の中でも特に重要な出来事だった。
「SPORTS」なんて、それに比べりゃチョロイもんだったよ。
●アルバム制作中、以前から交流のあったプロデューサー、マット・ジョン・ランジが送ってきた曲”ビリーヴ・イン・ラヴ”のデモ・テープを受け取った時のことについてヒューイ
すみからすみまでがヒット・ソングって感じで、つまらないところがない。まさにトップ・テンに入るべくして生まれた曲だよ。十分コマーシャルで、しかも飽きが来ない。みんなヒットするって言ったよ。なぜかって?他のヒット曲と同じように聞こえたからさ(笑)。
●初めての成功を収めたことについてヒューイ
ロデオみたいなもんさ。一度うまくいっても、2週間たてばまた荒馬に乗らなきゃならない。乗っている最中に「待った!コーヒーを飲みたいんだ。」なんて言ってられない。乗り続けるしかないのさ。
ある日、俺はパリのエッフェル塔のベンチに座って、フランス人の音楽プロデューサーと政治について話していたんだ。その半年前には、サンフランシスコで食う物にも困っていたっていうのにね。
●メンバーによる曲紹介☆小さな偽り
ジョニー
当時流行りはじめていたレゲエの影響を受けている。昔のルーム・メイトが、1年ほどピーター・トッシュのところで働いていたことがあって、よくラスタの儀式の話をしてくれたんだ。それにインスパイアされて、レゲエ・フィーリングのこの曲が出来たってわけ。☆5時半からのデート
クリス
シン・リジィにいたフィル・リノットの曲さ。彼のヴァージョンはもうちょっとスムーズだけど、僕らのもかなり出来がいいと思うよ。どうしてシングル・カットされなかったのかな?☆サンフランシスコ・ラヴ・ソング
ジョニー
マイク・デュークの曲。アトランタのシンガー・ソングライターだけど、口じゃ言えないくらい才能のある男でね。カバーしたい曲が山ほどあるんだ。イントロのホーンのメロディーは、レコーディングの時遊びに来てたアル・クーパーのアイデアを拝借した。☆ワーキン・フォー・ア・リヴィン
クリス
シンプルなロックの小品ってところだね。この曲で肝心なのは歌詞だよ。ジョニー
歌詞が曲の効果を高めているし、フィーリングもビートもいい。この曲は”ビリーヴ・イン・ラヴ”と並んで、初めてみんなが歌詞をちゃんと聴いて覚えてくれた曲なんだ。”ビリーヴ・イン・ラヴ”はかわいらしい内容だけど、こっちは聞く人との関わりが深い。☆トゥルー・ラヴ
ジョニー
この曲のコンセプトは一気に浮かんだ。歌詞はヒューイと相談しながら1日で作った。この曲が脚光を浴びないのが不思議でねぇ。なんで誰もカバーしてくれないんだろう。☆オンリー・ワン
ヒューイ
これは中学生の友達を歌にしてる。その友達っていうのが学校一クールな奴で、こっちがまだ女の子と口もきけないうちから、しっかりガール・フレンドと肩を組んであるいていたんだよ。でも、俺が転校して、4年後にまた戻ってきたとき、奴は大酒飲みになっちまってた。
それから2,3年して、新聞に奴が死んだってニュースが載った。酔っぱらってフリーウェイを歩いているいるところを車にはねられたんだ。悲しい歌さ。
当時は気が付かなかったけれど、実は俺達の手本みたいな奴だったんだ。
「SPORTS」
●クリサリス吸収のごたごたに巻き込まれて「SPORTS」をリリースするのが遅れた事についてヒューイ
クリサリスが俺達の新しいレコードをきちんとプロモートできる立場にいるとは思わなかったんだ。で、新作のテープを渡さなかったんだ。”ハート・オブ・ロックンロール”とか”アイ・ウォント・ア・ニュー・ドラッグ”とかは、もう録りおえていたんだけど、いろいろと手直ししていたのさ。
でも、ツアーに出て2ヶ月演奏してみると、結局最初のアレンジが一番いいってことになった。
●再びラジオのオンエア回数を稼ぐためにカバー曲である”ハート・アンド・ソウル”をファースト・シングルにしたことについてヒューイ
悪魔と取引しなきゃならない時もある。それはいつも考えてた。まず最初に、ヒット性のある曲をいくつかラジオに提供する。本当にやりたい音楽をやるのはその後さ。どちらが掛けてもダメなんだ。
正直いって、”アイ・ウォント・ア・ニュー・ドラッグ”が「ベイ・エリアの風」からのファースト・シングルだったら、ヒットはしなかっただろうよ。デビューしたてのバンドがあの手の曲をファースト・シングルで出してたら、ラジオでオンエアされるチャンスなんて無かったと思う。”ビリーヴ・イン・ラヴ”だったからこそ、ラジオでヒットした。だから今回は”ハート・アンド・ソウル”で同じ方法をとったんだ。
●自分たちのキャラクターを出すためにリズム・マシーン等を使っての演奏を始めたことについてヒューイ
スタジオでライヴっぽい雰囲気を再現しようとするのはやめて、トリックを使い始めたんだ。昔は、そんなウソっぽいことやれるかって思ってたんだけど、曲は次から次へと作っていかなきゃならないし、完璧を期すには忍耐も必要だってことがわかってきたのさ。
●セカンド・シングルとして発売された”アイ・ウォント・ア・ニュー・ドラッグ”についてヒューイ
俺は最初っからこの曲がアルバムの中でも一番ウケると思っていたよ。レコードが出たばかりの頃は、みんなに「なんだコレ?」って言われたし、ラジオ局やレコード会社の人間の誰一人として、これだけのヒットになるとは予測できなかったはずさ。
こういうタイプのサウンドは今までには無かった。ファンク・ミュージックじゃないし、ある種のロックなんだけどどこか違う――歌詞も変てこで、ラヴ・ソングのようでもあるけど、それだけじゃあない。どんな種類の音楽といえばいいんだろう?それまでのカテゴリにはあてはまらないし、聞いた途端に”コレだ!”っていう奴は誰もいなかったよ。
でも、俺には分かってたのさ。特にシングルを意識して作った訳じゃないけど。
●サード・シングルとして発売された”ハート・オブ・ロックンロール”についてヒューイ
タルサとかオースチン、シアトルといった街のバーで、毎晩すばらしいロックンロールを演奏している無名のミュージシャンたちに敬意を表して書いたんだ。
レコード会社のスカウトマンは、そんなところまで出かけていったりしないから、そういう無名のミュージシャン達には、いつまでたってもチャンスが巡ってこない。でも、そういった連中のプレイする音楽は、今も、これからもずっと消えはしないんだ。
●「アルバムを作る」ということについてヒューイ
民主主義でいく、それが俺のやりかたさ。音楽はチーム・プレイ第一のスポーツと同じだよ。アルバム・タイトルの理由の一つはそれさ。バックアップしてくれる奴がいなけりゃ歌なんて歌えない。チームのメンバーがそれぞれのポジションについてて、どこも同じくらい重要なんだ。キーボード・プレイヤーもヴォーカリストもその必要さには変わりがない。そういうものなんだ。
変な話だけど、スタジオに入るとバンド・メンバー募集の張り紙が目に付くだろ。”個性とプロ根性とガッツのあるギタリスト求む。連絡はここまで。”てなやつ。これじゃ、まるでIBMの社員募集じゃないか。てっぺんにバンドの写真が貼ってあって、モトリー・クルーみたいな格好をしたガキが並んでて、ロック・ドックとかなんとかって名前でさ。こりゃおかしいよね。こんな技術系の会社の求人広告みたいなのって、俺は絶対に間違っていると思う。
俺は、こんな広告につられて連絡を取ったりはしなかった。個性よりもなによりも、まずどういう音楽ができるかで勝負するべきだと思っていたからね。だから、俺達のサウンドには、本物の音楽をやってるってことから自然に出てくる誠実、というものがあると思う。そう思いたいしね。
●アルバム「SPORTS」についてクリス
「SPORTS」は良識で健康的なポップ・アルバム。まさにアメリカン・ロックンロールさ。聞いての通り、ストレートで前向きなレコードだよ。ヒューイ
3枚のアルバムの中じゃ、一番最初のコンセプト通りに仕上がったアルバムだね。でも、いつも歌っていると”この野郎、もっとうまく歌わなきゃダメじゃないか”って思ってしまう。で、もう1回やり直してみると、今度は前より良くなっている。でも聞き込んでみると、やっぱりアラが見えちゃうんだ。どういうことか分かる?つまり、それが俺の限界なのさ。だからそこまでってことにするしかない。
スティービー・ワンダーだったら、きっとボツにするだろうなって思いながら自分の歌を聞くのはおかしなもんさ。でも、精一杯やっているんだよ。
●メンバーによる曲紹介☆ハート・オブ・ロックンロール
ジョニー
この曲は、ツアー・バスの中で書いたんだ。陽気なロックンロールさ。
ヒューイがこの詩を思いつくにあたっては、ちょっと面白い話があってね。
クリーヴランドで最高のコンサートを演った後、バスに乗り込んだんだけど、まだ興奮でもうろうとしているヒューイがいきなり「おいみんな、いいアイデアが浮かんだぜ!ロックンロールの神髄はクリーヴランドにある(The heart of rock'n roll in Cleveland)ってのはどうだい?」って言い出したんだ。みんなでそりゃいいな、その先も考えろよって言ったら、ヒューイはバスの後ろの方で考え始めたんだ。そうしてできたのが「Heart of rock'n roll is still beatin'」の一節。
ある晩、そこを歌って聞かせてくれて、僕がコードをつけたんだ。☆バッド・イズ・バッド
ジョニー
僕が少し手直ししてるけど、もともとこれはヒューイの曲だ。
デイヴ・エドマンズが「リピート・ホエン・ネセサリー」で、僕らがライヴで演るみたいな、ストレートなアップ・テンポのブルース風に演奏してる。
僕がスロー・テンポにしたらってアイデアを出すと、アルバムの溝埋めには丁度いいんじゃないってヒューイに言われたよ(笑)。☆アイ・ウォント・ア・ニュー・ドラッグ
クリス
82年にラヴァー・ボーイの前座でプレイしていた時、バスの中で書いたんだ。ギター・ソロが取れる曲が欲しくてね。アルバム、シングル、12インチと全部違うソロを弾いているんだ。ジミ・ヘンドリックスの”紫の煙”のフレーズはマリオのアイデアなんだ。☆君のもとへ
クリス
この曲も、バスの中で書いた。シンプルな曲だね。ヒューイ
一生落ち着ける場所を見つけることについての歌だ。俺にとっての落ち着ける場所といえば、やっぱり音楽だね。ジョニー
レコードでの演奏は大いに気に入っている。この曲を推したのは僕なんだ。クリスがまだ書き上げていないうちから、きっと良い曲になると思ってた。見事に期待に応えてくれたよ。☆いつも夢見て
クリス
すごく良い曲。ギター・ソロも最高でしょ?ジョニー
この曲に関しては、アイデアが一気に浮かんできた。ミューズ(音楽の女神)の言葉が聞こえたのさ。ただ、サビの部分だけはひどい出来で、ヒューイが「これは惜しい」ってあの部分を考えてくれたんだ。詩はあの2人の共作。デモ・テープを聞かせたマネージャーは「ヒット間違いなし」って言ってくれたけど、その通りになったね。
その他
●自分たちの演奏を聴きに来てくれる観客についてヒューイ
どこへ行っても、観客ってひとつの生き物みたいなんだ。例えば、JFKスタジアムみたいな会場のお客は、でっかいクジラさ。頭をハンマーで殴りつけてもビクともしないけれど、ツボをくすぐると飛び上がるんだ。とにかくこっちを向かせて、こっちに来させなきゃいけない。恋愛と同じさ。なだめたりすかしたりして、ようやくモノになる。でも、そろそろ大人数の前で歌うのはやめて、家の居間でごく少ない人数の前で歌いたくなってね。
●映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」に曲を提供してから目立った動きがないことについてヒューイ
ラジオからしばらく遠ざかっているのは、良いことだと思うよ。みんな、もうヒューイ・ルイス・アンド・ザ・ニュースには飽き飽きしているだろうから。リリースのタイミングとか、いろいろと大事なことはあるけど、なによりもいいレコードを作らなきゃならないと思っているんだ。そこからすべては始まるんだし、実際に立派なアルバムを作りさえすれば、ブランクなんて問題じゃなくなるさ。
●音楽というものについてヒューイ
音楽には2種類しかない。いいものと悪いもの、それだけだ。音楽を作り出す才能という神様の恵みを受けながら、それを無駄に使ったりしたら、申し訳が立たないだろう?音楽を愛していながら、そして音楽に大いに助けられながら、このお返しをしないなんてことができるかい?今度のアルバムじゃ、音楽の歴史に永遠に残るような物を作りたい、そう思っているんだ。