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朝日新聞1985年夕刊(日付不明)

 


「サウンズ」

 シンプルでありながら雄弁なロックンロール ヒューイ・ルイス&ザ・ニューズ

 久しぶりにアメリカのロックンロールを堪能(たんのう)した。それもバンドならではの歌と演奏を。来日は二度目だが本公演はこれがはじめて(三日、東京・日本武道館)のヒューイ・ルイス&ザ・ニューズ。
 サンフランシスコ出身の六人組である彼らは、着実なライブ活動と、今なおベストセラーを続けているアルバム『スポーツ』からたて続けにヒットを生み、高い人気と評価を得ている。
 日本でもそれら一連のヒットに準じて製作されたプロモーション・ビデオ、さらにはビッグスターと肩を並べての「USA・フォー・アフリカ」への参加をきっかけに、その人気が一挙に爆発したようだ。そして現在は映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の主題歌である「パワー・オブ・ラブ」がヒット中。タイミングのよい来日公演となった。
 さて、公演は、アメリカの各地に散在する音楽都市の名を織り込むとともに、アメリカの伝統音楽への敬意を表したともいえる「ハート・オブ・ロックン・ロール」でスタート、以後、歌い継がれた作品のいずれも今やなじみのものばかり。その大半がロックンロール、リズム・アンド・ブルース、ブルースのスタイルを踏襲し、なおかつ現代性を織り込むことも忘れてはいない。
 その演奏、サウンドは、ひとつひとつの楽譜の生の音、アンサンブルの妙がくっきりと手にとるようにわかるほど、シンプルだ。
くわえてコーラスも申し分なく、無伴奏によるアカペラでそのさえ、ノドの確かさを披露、実にパワフルだ。
 最も注目すべきは、ひとつひとつの作品の雄弁さであろう。いずれも簡潔なメロディーを持つ。そうした作品に特有な力強さも見逃せない。そして、実に軽妙でもある。軽く明るく、あっけらかんとしているようで胸を突きさす何かがあるのだ。その説得力は、単純に彼ら自身の演奏の力量によるだけのもののようには思えない。メンタルなもの、思慮深さを、くみとらずにはいられない。
 風邪をこじらせ、ノドを痛めていたヒューイ・ルイスは、その本領を十二分に発揮できなかったようだが、その歌声は大きく力強かった。バンドのメンバーも含めて、全員からうたがえるひたむきさ、誠実さも大きな魅力だ。
 タワー・オブ・パワーのホーン陣によるリズミックなサポートが、色彩を豊かにする以上にコクのあるひと味を添えていたことも見逃せない。

(小倉 エージ)


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